友人から面白い本があったよと本を貸してくれました。
小川洋子さんと、創作ユニット、クラフト・エヴィング商會(しょうかい)の「注文の多い注文書」です。
いくつもの入り組んだ路地を通り抜けた先にひっそりとあるお店、クラフト・エヴィング商會。
ショーウィンドウには見たことのない変わった品物が並び、「ないもの、あります」という貼り紙も貼ってあります。
ここを訪れる人たちが依頼するものは、人体欠視症治療薬、村上春樹の小説に出てくる貧乏な叔母さん、人体に寄生する植物の標本といった、この世の中には存在しないものばかり。
それでも店主はしらみつぶしに調べたり、悩んだり、時間をかけながら、依頼されたものを納品します。
「ないもの、あります」の意味がなんとなくわかってきたでしょうか。
この本には依頼者とのやりとりが、注文書、納品書、受領書の形式で記録されています。
注文書には品物を依頼するにあたった背景が依頼者の視点で、納品書は依頼の品物を探した経緯が店主の視点で、受領書は品物を受け取った感想が依頼者の視点で描かれています。
読んでいるとカウンセリングの対話を聞いているような気分になります。
架空のお話ですが、この話がただのフィクションに感じないのは、品物の写真があるから。
この本の表紙の写真もある依頼者の品物です。
写真だと何だか本当にありそう。しかも実際に本当に実在するものも含まれていて、そうすると他のものも本当にあるのかも?と混乱してきます。
店主が時間をかけて納品した品物ですが、受け取る時にはなぜかもう、その人にはそのものが必要なくなっているに感じられます(個人的な印象です)。どうしてそう思うのだろうと本を読んだ後に考えてみると、依頼者たちは依頼する過程でそのものが必要になるきっかけを整理したり、納品までの間に気持ちの整理ができてしまったからなのかなという結論に落ち着きました。
依頼者があるできごとを乗り越えるきっかけ(または時間)が「もの」だったのかもしれません。
もし、ないものが必ず見つかるお店があったとしたら、私だったら何をお願いしようか。
想像が膨らむ本でした。