先週Eテレで放送された宮川一夫さんのドキュメンタリーの感想です。
宮川一夫さんについて
宮川一夫さんは日本映画のカメラマンです。
日活の現像所で見習いとして働き始め、撮影部に異動し、日本映画の巨匠と言われた黒澤明監督や市川崑監督などのカメラマンを勤めました。
今年で生誕110周年を迎え、ニューヨークでデジタル復元した映画が上映されました。
ドキュメンタリーの内容
デジタル復元の担当者から見た作品の魅力や、宮川さんが生み出した独特な表現方法の数々が遺品を通して紹介されていました。
私の印象に残ったポイントを3つ紹介します。
1.独特な表現方法その1:多重露光
多重露光はいくつものシーンを重ねて撮影する手法で、写真でも時々見かける手法です。
デジタルカメラの場合、画像を合成することで多重露光の画像を作っていますが、フイルムの場合一つのカットに複数のシーンを重ねて撮影します。
「無法松の一生」という映画の回想シーンで多重露光の手法が使われていますが、映像を見ると一コマに最大3つのシーンが重なる部分があります。
映像を重ね合わせるためにまず1つのシーンを撮影し、重ねたいコマまで巻き戻して2つ目のシーンを重ね撮りし、さらに3つ目のシーンを重ねたいコマまで巻き戻して撮影するという緻密な作業を行なっています。
聞いただけでも気の遠くなる作業です。フイルムなので失敗もできませんからプレッシャーのかかる撮影だったのではないかなと想像します。
重ね撮りのわかりやすい設計図などを見ていると、楽しんでいたのかもとも感じました。
2.独特な表現方法その2:銀残し
フイルムの表面には臭化銀が塗られていて、光が臭化銀に当たると銀に変化します。
フイルムを現像すると、銀は洗い流され光の当たった部分は透明に、光の当たっていない臭化銀は洗い流されず残り、フイルムに撮影したシーンが浮かび上がります。
このフイルムに光をあてると、映像がスクリーンに写ります。
銀残しは洗い流される銀を少し残すことによって、通常の発色よりも少し渋い色を出す手法で、「おとうと」という映画の時代感を出すために考え出されました。
宮川さんははじめ現像所で見習いとして働かれていたので、そこでの経験が生かされたのかもしれませんが、今ある手法から新しい手法を生み出す発想に才能を感じます。
宮川さんが考える手法はとても実験的で誰もやったことのないものだったので、現像所の人たちからはとても嫌がられたそうですが、この手法はのちにスティーブンスピルバーグ監督の「プライベートライアン」で使われるなど海外の映画にも影響を与えました。
デジタルカメラでもペンタックスのカメラに銀残しというモードがあったり、今でもファンの多い作風です。
3.常にベストを尽くす姿勢
新しいことを始めるときに宮川さんのように周りから煙たがられたり、環境が変わって今までできていたことができなくなることもあると思いますが、どんな状況であっても今できる最善のことをやってみる姿勢が大切ということをこのドキュメンタリーを通して教えてもらったような気がします。
宮川さんの斬新なアイディアや仕事への姿勢などがわかる興味深いドキュメンタリーでした。
写真や映画が好きな方はきっと楽しめる番組と思います。
再放送は12月13日午前0時から1時です。